ページの先頭

ページ内移動用のリンク
ヘッダーメニューへ移動
グローバルナビゲーションへ移動
本文へ移動
フッターメニューへ移動
ここから本文です

祖父母の活躍によるワーク・ライフ・バランスの実現

2011年12月8日

NPO法人エガリテ大手前 代表 古久保 俊嗣氏

東京の65歳以上の高齢者の9割弱は、介護保険の介護を要しておらず元気な状態です。※

定年後の自由な時間は、まだまだ社会参画に役立てそうです。今回のコラムでは、祖父母の孫育てを提案するNPO法人「エガリテ大手前」代表の古久保さんに執筆してもらいました。
※ 平成19年度 在宅高齢者実態調査(東京都福祉保健局)より

エガリテ大手前の発足の経緯

「エガリテ」は仏語で「平等」の意、「大手前」は大阪にある高校の名前である。高校卒業後30年ぶりに首都圏在住者の同窓会があった。この高校の前身は女学校であり、出席番号は女子が終わってから男子が始まる。入学時には男女ともに驚いたものだ。優秀な女子が多く「女性上位」の空気をも吸いながら同窓生は育った。ところが再会してみると、女性のほとんどが専業主婦であり、就職経験のない者も少なくない。当時は4年生大卒女子の就職の道はほとんど閉ざされていたのだ。そして、自分たちの子供の世代が社会に出る時期を迎えている。「男女機会均等」「男女共同参画」が謳われながら、社会の実態は大きくは変わっていないではないか。そんな問題意識を共有した仲間たちが「男女共同参画社会の創出」をテーマとして社会貢献活動を始めた。高校のDNAが30年後に突然発現したようだった。それから7年が経過して、同窓集団の色彩は薄れて、幅広い層が参加するオープンなNPOになっている。

ソフリエを思い立った経緯

「男女共同参画」を考えるうちに「少子化」も問題意識にのぼってきた。そして、「多くの若者が子供を欲しいと願っているのに、なぜ産み育てることができないのか?」という疑問に至る。そこで二世代(「母親層」「祖母層」「祖父層」)に聴き取り調査を実施したところ、3つの特徴が出てきた。一つは、母親が、家族(祖父母層)に育児を手伝ってもらいたいと考えていること。二つ目は、祖父が、孫育てに参画してみたいと思っていること。三つ目は、祖母・母親が、祖父は育児の知識経験がないためにとても任せられないと考えていることであった。確かに祖父層も子育ての参画経験が少ないことは認めていた。しかし、彼らはベビーブーマー世代である。戦後の民主化教育の第一期生であり、自由・寛容な考え方は、他のどの世代よりも身に付いている人々だ。学生運動や消費文化の担い手として戦後の社会に大きな影響を与えた世代である。ただ、高度成長や国際競争の時代の尖兵となり、子育てや家事を妻に任せざるを得なかった人たちなのである。我が子の育児に参画できなかった悔しい思いを持つ人も少なくない。それであれば、祖父層に足りない育児知識や技能をしっかりと習得できる講座を行ない、修了者を資格認定すればどうだろうか。認定証を提示することで、周囲の不信は払拭されて、祖父層の夢である孫育ての道が開かれるのではないかと考えたのである。そのために、講座は実技をふんだんに取り入れた充実した内容にしてあり、認定式も、北九州市などでは、市長が一般市民の前で、修了者一人一人に手渡すという念の入れ方なのである。

自身のこれまでの働き方について

私も、いわゆる「企業戦士」「猛烈ビジネスマン」であり、家庭や地域は妻に任せっきりだった。子供が小中学生だった米国駐在時には、家族が団結して協力しなければ、何事も進まない事情もあって、何かにつけて家族と一緒の時間を多く持った。しかし、帰国すれば、元の「不在亭主」となってしまった。当時の日本の社会文化に完全に染まってしまったのだ。今も、私のビジネスマンとしての側面しか知らない人たちは「猛烈ビジネスマン」だと見ている人も少なくない。しかし、私自身としては、明らかな変化を実感している。私は「机の脚が一本や二本では立てない。三本では不安定でしかたがない。四本、五本と増えるほどに安定感が増す。さらに増えると外見はともかく、どっしりした縄文杉のようになる」と言っている。打ち込むものが複数あってこそ人生は安定すると考えているのだ。そもそも「未成年は勉学」「成人は労働」「老年は趣味」というような横割り思考には危険なものを感じる。どの年齢であっても「勉学」「労働」「趣味」「スポーツ」「芸術」「社会参画」「家事・育児」「交友」などが複合的に実践されることが「人生の進化」だと考えているからだ。これからの人たちが、「勉学」「労働」などの単線キャリアに余りにも埋没してしまうことに危惧を感じている。

家族

ソフリエの活躍による祖父・祖母にとっての生活の変化(定年後の緩やかな働き方)、母親にとっての働き方の変化

「男女共同参画社会の創出」をめざす我々は、「出産退職」「結婚退職」などが未だになくならないことが残念でならない。M字カーブの勤労形態で、後半は「非正規雇用」の道しか残されていないのは、あらゆる面から不合理であり、一刻も早い改善が求められる。性差なく社会への関わりと自己実現の機会が開かれることが、「男女共同参画社会」の第一歩であるからだ。しかし、現下の経済社会環境を見ると、いたずらに、「育児休業の男女共の100%取得」「保育所の待機児童ゼロ」「保育の多様化推進」などを訴えてみても、即効性が期待できるとは思えない。家庭や地域でできることを自発的に推し進めながら、一方で、政府や行政や企業の施策としての改善を継続して求めてゆくしかない。

そこで、今は育児労働力としては潜在化している「祖父層」、どちらかというと受身になっている「祖母層」の育児労働力を顕在化することを考えた。祖母層の生活は多様・多彩化しており、一般に充実した多忙な毎日を送っている。そんな中で、孫の育児を引き受けることは、日常生活のリズムを崩して全面的に対応することを意味する。病気一つできないという不安にもかられる。ところが、祖父層が手を挙げれば、祖母層は二日に一度の参加ですむ。さらに、婿側の祖父母層が参加すれば、週一日ですむのだ。育児は、老人介護と違って、計画が立てられ、負荷も段階的に減ってゆくものだ。幼児の育児や触れ合いを通して、新しい価値観が生まれ、社会ネットワークが広がってゆく喜びは言うまでもない。

祖父母層の社会参画を考える時のキーワードは「ワークシェアリング」だと思う。既にできあがっている生活リズムの中で、一人で抱え込むのではなく、皆で少しずつ分け合って参加してゆく姿が、老人らしい智恵と経験に裏打ちされた成熟した流儀だと思う。我々は、このような智恵に溢れた生き方を「バジル方式」と呼ぶ。バジルは自分を主張せず、周囲の旨みや素材を引き出す最高のハーブ。祖父母層がバジルのように周囲を活かす社会を主体的に作ってゆくことが、「ババ・ジジ・ガンバる」の「バジル方式」でもあるのだ。

バジル方式イメージ

ソフリエ認定講座をやってみての感想・感触 等

「ソフリエ講座」に参加される祖父層は、開放的で、明るくて、積極的な人々である。ボランティアや趣味の活動などに広く参加している人も多い。健康面はまったく問題ない。私は認定式で、「ソフリエは単なる通過点である」と言っている。自分の孫を育てる「ソフリエ」は、「ドクター・オブ・イクメン(博士課程)」であり、その上位に「キング・オブ・イクメン(王者)」となる「イクジイ」が存在する。「イクジイ」は、自分の孫だけでなく、地域の幼児・子供の育児や教育に積極的に参加する「スーパーじいさん」だと説明する。祖父層は、日本や世界の将来を考えながら、何らかの形で、次世代を担う子供たちの育成に関わりたいという気持ちを持っている。サラリーマンとして部下の育成に腐心した長年の経験も持っている。このように、祖父層は、これからの社会にとって真に頼りになる人的資産である。しかし、仕事中心の生活を続けてきたために、祖母層に比べて地域や社会との関わりが薄い。それゆえに、地域参画のハードルを越えられない人も少なくない。このハードルを下げて、地域と社会に引き込む第一歩は、まずは家庭に参画することだと思う。祖母層との共同、子供たち世代への応援などをきっかけにして、祖父層の活躍の範囲が次々と広がってゆくはずだ。そして祖父層の活躍が現役世代のワーク・ライフ・バランスの実現を後押しする。このような好循環を期待しつつ、その一助となれればと願いながら、各種の活動を続けている。

<プロフィール>
古久保 俊嗣 氏
(NPO法人エガリテ大手前 代表)

商社員として米国、NZ駐在。2004年NPOエガリテ大手前を設立。男女共同参画の調査研究、政策提言、研修などを行う。毎春「子育て環境ランキング(主要都市)」「子育て環境改善度ランキング(主要都市)」を発表。「男2代の子育て講座(ソフリエ・パパシエ認定)」「子育て今昔物語」「遊びの鉄人-あそぶぎょう」等の研修を全国で展開。祖父のための孫育て技能資格「ソフリエ」は新キーワードとして定着。一橋大卒。

ご質問・ご意見
ここからフッターメニューです