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経営者がすすめるワーク・ライフ・バランス
~中小・ベンチャー企業が取り組める経営戦略として~

2013年3月7日

株式会社クララオンライン代表取締役社長 家本 賢太郎 氏

ワーク・ライフ・バランスのゴールイメージは「仕事の充実」と「仕事以外の生活の充実」の好循環であり、そこに到達する方法は会社によって異なって当然です。中小企業において取組を進める上では、経営者と社員との距離の近さがひとつの強みになります。

今回のコラムでは、平成23年度東京ワークライフバランス認定企業の株式会社クララオンライン代表取締役社長 家本賢太郎さんに、中小・ベンチャー企業におけるワーク・ライフ・バランス推進の取組について、経営者の視点から執筆していただきました。


※ 東京ワークライフバランス認定企業についてはこちら


企業経営とワーク・ライフ・バランスの推進との関係は、経営者の中でも様々な誤解があるようです。私は2005年の第一子の出生でライフスタイルが大きく変化したことから働き方について考えるようになり、持続的な成長ができる組織を創りあげていくためにワーク・ライフ・バランスの重要性を会社の中で話しはじめていました。しかし当初は私自身にもワーク・ライフ・バランスに対する大きな誤解があり、無理な計画、組織のサイズにあわない施策を取り入れようとして頓挫したことがありました。

今、私たちは、会社の身の丈にあった、そして中小・ベンチャー企業が取り組むことのできる範囲でのワーク・ライフ・バランスを考え、その範囲で実践しています。今回のコラムでは、こうした実例を踏まえ、経営者の視点から見たワーク・ライフ・バランスの推進のメリット、そして経営者がリードすることの重要性などについて触れることにします。

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企業がワーク・ライフ・バランスに取り組むメリット

改めて言うまでもなく、あらゆる企業にとって最も重要な資産は人材です。そして、会社で働く一人一人がどう活力をもって仕事に取り組むことができるようにするかは、会社が考えるべき優先的課題です。少なくとも、私はそう考えています。しかし、働く人はいくらでも代わりがあると考えている企業経営者には、ワーク・ライフ・バランスを経営に組み込もうとする発想は難しいでしょう。ですから、会社として従業員がいきいきと生活し、仕事に打ち込み、新しいことを学ぶ、というサイクルを重要だと考えている企業でなければ、どれだけ立派にワーク・ライフ・バランスの推進を掲げても看板倒れになるだけです。企業経営には様々な手法がありますから、どちらを正解と結論づけることはできませんが、ワーク・ライフ・バランスに取り組もうとする企業経営者には、自身の企業経営に対するスタンスがどうであるかをまず考える機会をぜひ持っていただきたいと思います。

 

その上で、企業経営にとってワーク・ライフ・バランスを提唱するメリットが何らかのかたちでなければ、経営者が踏み込み難いことも事実です。あるのかないのかと問われれば、私の答えは明確に「ある」です。ただ、定量的なメリットと定性的なメリットの両方を求めるのは、従業員の母数がさほど多くない中小・ベンチャー企業ではやや危険です。ワーク・ライフ・バランスに取り組んだから離職率が減った(定着率が上がった)、会社の業績が向上した、というような安易なKPI(Key Performance Indicator, 業績評価指標)を設定してワーク・ライフ・バランスの取組の成否を計るべきではありません。結果として遅効的にこうした数値が上がる可能性は十分にありますが、企業経営におけるメリットはむしろ定性的な要素に多くあります。

一点目は、従業員が長く働くことのできる環境を作ることによる、ノウハウの流出や、新たな採用を行うことによる採用・研修コストの低減です。中小・ベンチャー企業では、仕事が特定の人に依存していることは珍しいことではありません。仮に、働き方に制約があることで退職しなければならない事態になってしまうと、その人が持つ業務のノウハウや知見など無形のものが突如として企業から消え去ります。新たな人を採用すればいいと考えられるかもしれませんが、採用に関わる費用、採用までの空白の時間、そして研修をするための費用など、直接・間接的に多額の支出を見込む必要があります。そもそも、中小・ベンチャー企業は、こうした特定の人の退職によって屋台骨が揺らぐということも珍しくなく、人材の退職イコール重要な経営上の問題になることも少なくありません。中小・ベンチャー企業では休みがとりにくいという点は、年次有給休暇の取得状況を見ても明らかで、1000人以上の企業で取得率が56.5%であるのに対し、30~99人の企業では42.2%と、14ポイント近い差がついています(厚生労働省平成24年就労条件総合調査結果)。ですから、柔軟な働き方、復帰しやすい職場環境などの整備によって人材の流出を防ぐことは十分にメリットがあるのです。

さらに、育児・介護の事情などで「本当は仕事を休みたいが、私が抜けると仕事が進まなくなる」と責任を感じて家庭を犠牲にしているケースも考えられます。しかしそう思いながら働いていても仕事のパフォーマンスは決して高くないでしょうし、そもそも無理は続きません。

二点目は、ワーク・ライフ・バランスに取り組むことによる仕事の再整理によるメリットです。休暇をとったり勤務時間を短縮させようとしたりする場合には、その間の自身の仕事を誰かに任せる必要があります。会社としてワーク・ライフ・バランスに取り組むことをきっかけに、従業員や部署ごとの業務配分を見直したり、業務マニュアルを整備するといった「可視化」を進め、暗黙知となっていたことによる業務の非効率を改善するきっかけにもなります。

ただ、ここで注意すべきことは、ワーク・ライフ・バランスは育児や介護といった範囲に留まることではない点です。私は当時このことに対する理解が不足しており、2005年から2006年での取組は育児支援中心のワーク・ライフ・バランスの取組に絞っていました。広く本人の生活と仕事のバランスをとる例として、従業員の自己研さんを促し、学習のための時間を取ることができるようにするということもワーク・ライフ・バランスの施策に含まれます。従業員が新たなことを学ぶ時間を確保するということは、即効性を期待すべきものではありませんが、中長期では従業員自身の能力向上や視野を拡げることが、企業経営にとってもメリットに繋がるはずです。

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経営者がワーク・ライフ・バランスを推進する意義

ワーク・ライフ・バランスの推進は、特に中小・ベンチャー企業においては経営者、それも企業のトップである社長の意識の有無が、その成否に直結します。なぜならば、ワーク・ライフ・バランスは人事や労務といった枠組みに留まるものではなく、企業全体の価値観と密接に連動するものであること、そして一過性の取組で終わるものではなく、継続的に取組続ける必要があるためです。

既に、企業にとってワーク・ライフ・バランスを取り組むメリットは、単に従業員の働きやすさを追求して就業の継続性をはかることに限らず、その取組の過程で様々な業務プロセスを見直すことが生産性を向上させるに繋がるという点に触れました。その実践のためには、特定の部署に所属する従業員に限った動き方ではなく、全社が一斉に動く必要があります。その号令を出すことができる唯一の立場は組織のトップであり、部署の働き方・仕事内容にあわせたワーク・ライフ・バランスの取組を強力に推進しなければなりません。例えばある日突然、人事部門が「ワーク・ライフ・バランスを推進しましょう」と掲げても、現業部門からは「そんなことを言われても業務は忙しく、人手は足りていない。業務のマニュアル化を進めることも容易ではない」といった反発のような声があがることも考えられます。そうした実情も踏まえ、会社の方針として推進するというメッセージと具体的な意義が経営トップから発出されれば、時間はかかれど会社全体の取組であるとの理解が生まれてきます。当然、メッセージは繰り返し必要です。またこうしたメッセージの回数を重ねるだけでなく、経営者自身がワーク・ライフ・バランスを理解した行動を示し、その姿を見せることも欠かしてはなりません。

さらに、ワーク・ライフ・バランスへの取組は1年やって終わりという性格のものではなく、企業全体の働き方、仕事の仕方を変えていくものですので複数年かかってようやく徐々に変化が生まれるとの覚悟も必要です。担当者が変わったので取組のトーンが下がったとなっては本末転倒です。長期にわたってじっくりと結果を出していくものだからこそ、経営者が熱意をもって取り組む必要性があるのです。

クララオンラインの取組

私が経営するクララオンラインでは、独自の育児介護休暇制度の導入、柔軟な労働時間(時短勤務)といった制度面の取組だけでなく、ファミリーデーの開催、ノー残業デーの実施などに取り組んでいます。大企業のような取組のメニューの豊富さはありませんが、ワーク・ライフ・バランスの取組を地道に続けてきました。その結果、女性社員だけてなく男性社員の育児休暇取得もあらわれています。取組の背景には、従業員の年齢構造も影響しています。従業員の大半が20~40歳代に集中しており、特に30歳代の従業員が会社の成長と共に増加し、独身の従業員が中心だった組織が結婚、出産を迎える世代に急速にシフトしているのです。

また、私自身が1981(昭和56)年生まれで3児の子育て中の「リアル父親」であり、子育てというものは親の計画どおりにいくものではないということを実感していることも、従業員の生活を理解することに繋がっています。誰かひとりが熱を出せば、ほかの子の送り迎えを出勤前に突然代わらなければならないこともありますし、家庭には小さな「想定外」は山ほどあります。

会社としてのワーク・ライフ・バランスの取組は、無理に拡げようとは考えていません。中小・ベンチャー企業で出来ることは、少ない従業員数や小さな経営規模の中で限られています。背伸びせず、継続性を重視することがワーク・ライフ・バランスの本質でしょう。

経営者としてのポリシー

ワーク・ライフ・バランスの取組を進めようとする経営者は、社内外のステークホルダー(利害関係者)から様々な不安要素を投げつけられるかもしれません。例えば社外では取引先、取引金融機関、株主などから「ワーク・ライフ・バランスへの取組は短期的な業績圧迫要因にならないか」、「必要以上の人員配置計画になっていないか」と尋ねられるでしょう。社内からは「一部の人にだけメリットがあり、自分は忙しくなるだけでは」、「成長を遅らせる要因では」、「自分はバリバリと働きたいのに」といった声も聞かれるかもしれません。その質問に対する答えは私は全て×(ノー)ですが、経営者はステークホルダーを納得させるだけの具体性のある結果を示し続ける責任があります。一つは、優秀な人材の確保が会社のメリットになることについて定性的・定量的の両面から定期的に分析する必要性。もう一つは、ワーク・ライフ・バランスを推進していながらも業績の成長を確実に実現することです。

型にはまった取組は失敗のもと。特に中小・ベンチャー企業では、規模や体制にあわせた制度の導入を目指すことを提案します。

<プロフィール>
家本 賢太郎

(株式会社クララオンライン 代表取締役社長)

14歳のころ脳腫瘍の摘出後に車椅子生活となり生涯車椅子生活の宣言をされたが、1999年に入り奇跡的に回復し車椅子無しの生活が可能となり、2001年には障害者手帳を返納。

1997年5月 15歳で前身となる合資会社クララオンラインを設立。

米Newsweek誌「21世紀のリーダー100人」(1999年1月)、新潮社Foresight(フォーサイト)誌「次の10年を動かす注目の80人」(2000年9月)世界経済フォーラム主催「Young Global Leaders 2012」(2012年3月)に選ばれる。

内閣府男女共同参画会議議員や公益財団法人日本ユースリーダー協会理事など複数の公務を兼務。

クララオンラインは2011年12月に東京都より東京ワークライフバランス認定企業「育児・介護休業部門」で認定を受けた。

将来は自分のリトルリーグチームを作ることが夢。

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