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これから就職する学生に向けたワーク・ライフ・バランス指南

2014年1月27日

株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部
研究部長兼主任コンサルタント 渥美 由喜 氏

今回は、株式会社東レ経営研究所の渥美由喜さんによる、「これから就職する学生に向けたワーク・ライフ・バランス指南」と題した全3回の連載コラム(第2回)をお届けします。

 

※「その1:ワーク・ライフ・バランスの本当の意味」はこちら

その2 職場でワーク・ライフ・バランスを実現するために

「ワーク・ライフ・バランス(以下、WLBとする。)」という言葉は、誤解を生んでいる面があります。シーソーの両側にワークとライフが位置して、ライフを重視することはワークを軽視することになるから企業にメリットはない、と考えている経営者がおられるようだが、それはまったくの誤解です。

また、大企業は制度を整備しているのでWLBが進んでいる一方で、中小企業のWLBは遅れており、中小企業が取り組むのは難しいと言う人がいますが、これも間違いです。たしかに中小企業の方が制度の導入は遅れています。ただしそれゆえに柔軟に対応できるという面を持ち合わせているので、中小企業にWLBを導入するのは難しいというのは、一面的な見方で誤りです。

WLBは決して「働かないことを推奨すること」ではありません。「時間あたりの生産性」を向上させることで、労働と生活の質を高め、両者の相乗効果を目指すものです。従業員に働きやすい環境を提供することで、中長期的に企業が成長する、ハイリターンが約束された投資という見方が正解です。

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そもそも「WLB=時間外削減、休暇取得率向上」、「ダイバーシティ(以下、Divとする。)=女性活躍」と矮小化してはいけないと思っています。ある程度、目標を達成したらペースダウンしかねないからです。WLB、即ち、社員がワークもライフも自分でマネジメントする自律型人材になり、業務プロセスをたえず見直す職場風土を醸成するには、時間がかかります。Divは多様性と多面性を相互に理解し、活かし合い、切磋琢磨していくダイナミックなプロセスです。たえず新たなテーマを設定して、組織に波風を立て続けるのは面倒な側面もあります。

 

私は、国内外のWLB先進企業850社をヒアリングした結果、WLBへの取組が企業業績を向上させる要因には、3つの時間軸があることがわかりました。

 

まず、短期(2〜3年)的な効果としては、「優秀な従業員の新卒採用」の誘因となります。今の若い世代は、企業選びをする際に収入の多寡もさることながら「仕事以外で自由になる時間」がどれぐらいあるのかを重視する傾向があります。WLB先進企業の多くには、旧弊な「滅私奉公」タイプの社員は少なく、のびのびと社員それぞれが能力を発揮できる社風があることは、若い世代にとって大きな魅力となっています。
また、「従業員の引き留め」効果もあります。子供を持つ年齢は20代後半から30代にかけてですが、せっかくそれまで教育訓練投資をしてきた人が辞めてしまうのは、企業にとってあまりに大きなロスです。WLBに取り組むことで、辞めたくない人たちを引き留めることができたり、あるいは他社で訓練された優秀な人材を惹きつけることができれば、大きなアドバンテージを得ることになることでしょう。

次に、WLBの中期(5〜6年)的な効果としては、CSRを果たしている企業としての認知度が高まるとともに、株価が上昇したり、消費者の好感度が上がるといった宣伝効果があります。

また、「同じ従業員が育児経験を経て、労働の質が高まる」というメリットもあります。育児を経験した従業員がみな口をそろえて言うのは、「子育てをしながら働くことはいつも時間との闘いだから、かつての自分とは比べものにならないぐらい時間管理能力が高まった」という点です。「時間当たりの生産性」の上昇は大きなメリットです。

WLBの中期的効果としては、「消費者の視点で自社の製品を見直す」ということもメーカーなどにとっては大きな効果があります。現在、商品・サービスの購買決定権の8割は女性が握っているといわれます。WLBの推進により、仕事から離れ、一人の生活者・消費者として自社の製品を見直すチャンスが得られます。

 

WLBが長期的に最も大きな効果をもたらすのが「企業文化の変容」「組織・業務体制の見直し」です。すなわち、WLBはロスではなく、周りの人が業務を見直したり、経営者が組織体制を変革するチャンスだというように考え方の転換が図られることになります。

育児休業中あるいは勤務時間短縮中は、けっして「仕事をしない期間」ではなく、第三者の視点で冷静かつ客観的に仕事を見直すことができる「貴重かつ有益な期間」であるという発想の転換はきわめて重要です。こういう「逆転の発想」を会得した企業は、人材活用面で貴重な知恵を身につけたことになります。こうした企業では、企業文化が大きく変容します。

 

WLB先進企業では組織・業務体制の見直しを図ることにより、企業業績は大きく伸びています。WLBは、必ずしも企業経営者や管理職だけの責任ではなく、企業で働いているメンバー全員で考えていかなくてはいけない面があります。両立しやすい就労環境は業務効率化のバロメーターという側面があるのです。

私は、3,000社を対象としたアンケート調査を行ない、さまざまな組織・業務の見直しをした場合、それがどれくらいWLB策の利用につながるか、あるいは組織・業務体制の見直しを図っている企業と図っていない企業の間では、売上高の上昇・下落にどのような相関関係があるかを分析しました(上述、2006年版中小企業白書に掲載されています)。

その結果、部署間の重複業務の見直し、下位の役職への権限委譲を行なうと、WLB策の利用度が上がっていることが判明しました。また、社内の無駄な業務をなくし、労務管理権限などを下位の役職に委譲することで業績を上げているところが多いのです。すなわち、組織・業務体制の見直しを並行して行なうことで「WLB」と「企業業績の向上」という一石二鳥の効果があるのです。

 

現在、「WLB支援はコストがかかるから、その余裕はない」と考えている経営者は、発想の転換を図るべきです。経営環境が厳しいときこそ、大胆にWLBに踏み切るべきである。労働力人口が減少しているなかで、いかに優秀な人材を引き留め、惹きつけるかが企業浮沈の鍵となります。

これからの人口減少社会は、あらゆる人をフル活用する総力戦であり、企業のWLB支援は常識になります。この点に早く気づけるかどうかで、今後の企業業績は大きく明暗を分けるでしょう。

(その3に続く)

<プロフィール>
渥美 由喜 氏(株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部研究部長兼主任コンサルタント )
東京大学法学部卒。複数のシンクタンクを経て、2009年東レ経営研究所入社。内閣府「ワークライフバランス官民連絡会議」委員、厚生労働省「イクメンプロジェクト」委員等公職を歴任

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