ページの先頭

ページ内移動用のリンク
ヘッダーメニューへ移動
グローバルナビゲーションへ移動
本文へ移動
フッターメニューへ移動
ここから本文です

これから就職する学生に向けたワーク・ライフ・バランス指南

2014年2月21日

株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部
研究部長兼主任コンサルタント 渥美 由喜 氏

今回は、株式会社東レ経営研究所の渥美由喜さんによる、「これから就職する学生に向けたワーク・ライフ・バランス指南」と題した全3回の連載コラム(最終回)をお届けします。

 

※「その1 ワーク・ライフ・バランスの本当の意味」はこちら

※「その2 職場でワーク・ライフ・バランスを実現するために」はこちら

その3:私の体験、学生に向けたメッセージ

私自身、育児休業を2回、取得しましたが、その体験を経て、マルチジョブをこなす能力も高まるし、リスク管理能力も高まったと実感しています。というのも、よちよち歩きの赤ん坊は「リスクの塊」であり、見守っている大人は常に「次に何が起こるか」を予想しながら、リスク回避のために頭をめぐらすよい訓練を受けていることになります。こうして培われた能力は、ビジネスでも十分に応用できることでしょう。

 

特に、子育ては「いい管理職」となる能力を訓練される絶好の機会です。子供に手を焼くことで忍耐力が養われるとともに、心から湧き出てくる子供への愛情により、周囲の人たち全てに優しく寛容な気持ちとなる面もあります。

女性社員のみならず男性社員も「子供を持ってから人間としての厚みが出てきた。仕事の上でも一皮むけた」というのもしばしば耳にする声です。

また、子育てをしながら働くということはある意味でハンディを負う面があるので、そのときに周囲から支えられたり、会社から温情的な取り計らいを受けることで「ありがたいことだなあ。いずれ子供が大きくなったら、同僚や会社に恩返しをしなくてはいけない」というように、会社に対する忠誠心が高まり、生産性が高まった良質な労働を提供することにもなります。

 

しかし、残念ながら日本の一般企業では、まったく逆のことが起きています。すなわち、子育てをしながら働こうとする人たちに上司や同僚は冷ややかな対応をしてしまうため、社員は就労意欲を失い、特に育児の負担を多く担う女性は辞めてしまうのです。あるいは「会社にぶら下がってやっていこう」というようなモラルダウンを招いています。

WLBは制度よりも風土です。そして、風土は人が作ってくれるものではありません。自分起点で、共感の連鎖を起こすことで、徐々に社会の受け止め方は変わってくるという主体性を持ってワーク・ライフ・バランス(以下、WLBとする。)に取り組むことが大切です。

 

私が「WLBの研究に取り組みたい」と会社に申し出たのは(私は2回、転職していますが最初の勤務先です)、今から20数年前、入社2年目でした。当時の上司は鼻で笑いました。「おまえ、バカだなぁ。日本企業はワーク・ワークで大成功をおさめてきたんだ。WLBなんてやるわけないだろう。欧米企業は…とおまえは言うが、だから欧米はダメになったんだ。何がWLBだ。俺なんか、ワーク・ワークでわくわくしちゃうぞ、ワッハッハ!」

上司から研究禁止命令を出された私は仕方なく、業後に自分の時間を使って海外の論文を読んだり、有給休暇を使って、国内外にヒアリングに出かけていました。20数年の研究期間のうち半分以上が自分の時間を使って、私は研究をしてきました。趣味みたいなものです。しかし、10年ぐらい前から明らかに風向きが変わりました。日本を代表する優良企業グループもどんどんWLBに取り組むようになり、私への講演依頼やコンサルティングの依頼はここ数年、急増しています。かなり高い金額を出してくれます。

「たまたま当たった」と思われるかもしれませんが、私は社外にネットワークを張り、自分のアンテナに引っかかったことを自分なりに追及した結果が、自分のキャリアにも結び付きましたし、会社にとっては新規ビジネスに結びついたのです。会社の机にしがみついていたら、中長期的に伸びるビジネスのニーズやシーズ(種)に気づくことができません。

 

若い人たちには、ぜひ自分の時間を使って自己研さん、自己投資することも大切にしていただきたいと思います。そういう時間は決して、会社が与えてくれるものではありません。私は、業後の時間にやりたいことがいっぱいありましたから、どうやったら長時間労働をせずに定時までで成果を上げるか、ずっと試行錯誤してきました。

WLBは、多面性をもたらします。市民の三面性=職業人、家庭人、地域人というのが私の座右の銘です。私が業後にやってきたことの一つは、週末の「子供会」でした。20数年で2000人の子供たちと出会い、ひたすら一緒に遊んできました。家庭で虐待を受けて施設に入っているような子たちを含めて十数人が毎週、公園で私を待ってくれていました。

当時、上司から、「週末は平日のハードワークに備えて、体を休めろ。会社が命じたことだけをやっていればいいんだ」と強く言われましたが、私は業後の研究や子供会の活動にも継続して取り組みました。上司のおぼえがめでたくなかった私は、最初の昇格のタイミングで、同期百数十人いる中で、たった一人、昇格できませんでした。しかも2年続けて。毎年、会社の研修があるたびに、2つ下の後輩と一緒という辛い時期もありました。

今になって思うと、あの頃、週末に待ってくれている子たちがいるということがどれだけ心の支えになっていたかと思います。仕事は一所懸命にやっても報われない時もあります。そういう時でも、家に帰れば「がんばってね」と声をかけてくれる家族がいること、職場以外で趣味の仲間など自分の居場所があることは、心のセーフティネットです。落ち込んでも、家庭や地域社会で励まされ、気を取り直して、頑張ってみようと思えるのは、多面性をもっていればこそです。職場で新規商品や新規ビジネスを開発するためにも(攻めのWLB)、メンタル失調になったりしないためにも(守りのWLB)、みなさんの中に多面性をもっておくことが大切なのです。

WLBは何も社会人になってからスタートするわけではありません。学生の頃から、学業人、家庭人、地域人としての三面性にチャレンジするといいのではないでしょうか。ぜひWLBにチャレンジしてみてください。応援しています。

 

(おわり)

イメージ

<プロフィール>
渥美 由喜 氏(株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部研究部長兼主任コンサルタント )
東京大学法学部卒。複数のシンクタンクを経て、2009年東レ経営研究所入社。内閣府「ワークライフバランス官民連絡会議」委員、厚生労働省「イクメンプロジェクト」委員等公職を歴任

ご質問・ご意見
ここからフッターメニューです