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これから就職する学生に向けたワーク・ライフ・バランス指南

2013年12月27日

株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部
研究部長兼主任コンサルタント 渥美 由喜 氏

仕事と生活を両立できる社会の実現には、将来、社会の担い手となる若者が、ワーク・ライフ・バランスの意義や重要性を理解し、長期的な視野で人生を考えていくことが必要です。

今回は、株式会社東レ経営研究所の渥美由喜さんに全3回の連載コラムを執筆していただきます。これから就職する学生の方はもちろん、そうでない方もぜひご覧いただき、ワーク・ライフ・バランスについて、改めて考えてみませんか。

その1:ワーク・ライフ・バランスの本当の意味

私は働き盛りの会社員の傍ら、子育て、家事、介護、看護、子供会に取り組んでいます。頭文字に全部Kがつくので、6Kライフと自称しています。6Kのジャグリング(空中でボールを次々とまわす芸)はさぞかし大変だろうとよく聞かれます。たしかに、いきなり6Kは難しいと思います。ただ、1つずつ増えたので、徐々に慣れました。

6Kはまったく別のものではなく、それぞれのお蔭で助かる面もあります。例えば、子育てと介護。通常、夕方以降は息子たちを連れて実家に通っています。一時期、統合失調を悪化させた父から、罵詈雑言を浴びて辛い思いも味わいました。しかし、2回の育休経験が介護で活きたのです。というのも、自分の乳幼児期を『追体験』すると、さぞかし父母も大変だったろうと想像し、介護は数十年、愛情込めて育ててくれた恩返しと思えます。

また、仕事でも、プライベートでも『良かった作り』をしています。

 

私は、ワーク・ライフ・バランス(以下、WLBとする。)やダイバーシティ(以下、Divとする。)の研究者として国内外850社を訪問し、ヒアリングをしてきました。最近では、実際に会社がWLBやDivに取り組む際に、職場で業務改善等のコンサルティング等のサポートにも従事しています。WLBとは、誰もがこの会社で働いていてよかったという職場づくりです。私は自分の仕事を、「男性も女性も、子育てしている人も介護している人も、誰もがこの職場で働いて良かった、生きていて良かった社会にするお手伝いをしている、と考えています。

 

私は介護する男性を「介男子」と呼んでいますが、自分はイクメンとして介男子として、あまりたいしたことをやっているわけではないと思っています。ただ、心掛けているのは、子どもたちが「生まれてきて良かった」と思うような家庭になるように、妻が産んで良かったと思う家庭にしたいと思っています。また、要介護の父が晩年、長生きして良かったと思えるように、一生懸命、息子としてサポートしたいと思っています。

今は元気になって、走り回っている息子が、ある病気だと判明した2年前、妻がこんなことを言いました。「私たちは、もしかしたらこの子を看取ることになるかもしれない。それは自分の命を取られるよりもはるかにつらい経験になるでしょう。ただ、私たちはこの子の最後の瞬間までずっと笑顔でいることにしましょう」。

「最後まで笑顔でいるなんて、そんなの絶対に無理だ。なんで?」と、当時、涙に暮れていた私は妻にかみつきました。すると、「一番辛いのはこの子なの。自分が原因で親が泣いていると知ったら、この子はもっと辛くなる。だから、私たちはこの子に『生まれてきてくれてありがとう。おまえの親になることができて本当に幸せだよ』とずっと笑顔で声を掛けて、もし万が一、この子を看取ることになったら、その後に私たちは思う存分、泣けばいい」と妻は言い切りました。

以前、私が介護と仕事の両立で悩んで相談をした上司から、大いに励まされた言葉があります。上司が6歳でお父さんを病気で亡くした際に、当時、20代だったお母さんから『運命を引き受けなさい』と言われたというのです。私は、上司のお母さんがおっしゃった言葉も、妻の言葉も、本当に母親には、女性にはかなわないなと心底、思います。

学生など若い頃から、WLBに関心を持つのは大切なことです。しかし時折、仕事をほどほどにして私生活を充実させることと勘違いする人もいます。先進企業の担当者たちから、「入社面接時に、うちの福利厚生制度ばかりを根堀り葉掘り聞くような学生が増えて困っている」という話を聞くことがあります。また、せっかく会社が制度を充実させたのに、権利主張型社員が生じてしまい、周囲に不協和音が生じてしまうケースもあります。そういうタイプには釘をさすことも必要です。私は、「支援と貢献」という言葉をよく使います。社員はライフステージでいろんなニーズやリスクがあるので、会社はきめ細やかに支援をする(ライフ面)、支援された社員は頑張って貢献しようとする(ワーク面)というサイクルが起きるようにすることが大切です。

WLBを『ゆとり教育の労働版』のような、ゆるくて、ぬるいイメージでとらえる人もいますが、これは大間違いです。これからはあらゆる職場で、介護と仕事の両立は大きな経営課題になっていきます。あと15年で、社員の3人に1人が家族に要介護者を抱える状況が到来します。そうした状況を乗り越えるリスクマネジメントと考えるべきです。また、人生何が起きるかわかりません。ライフ面で制約ができたとしても働くことを諦めずに、乗りこえられるように、そうした状況になる前から、効率の良い働き方を絶えず試行錯誤しておくべきです。そういう働き方は、長時間ダラダラと残業をするよりも、はるかにシビアです。ただ、私自身、20数年、取り組んできて、「WLBをやってきて良かった」と確信をもって言えますので、ぜひ若い人たちにはWLBにチャレンジしてもらいたいと思います。

 

(その2に続く)

イラスト

<プロフィール>
渥美 由喜 氏(株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部研究部長兼主任コンサルタント )
東京大学法学部卒。複数のシンクタンクを経て、2009年東レ経営研究所入社。内閣府「ワークライフバランス官民連絡会議」委員、厚生労働省「イクメンプロジェクト」委員等公職を歴任

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