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ワーク・ライフ・バランス推進における職場風土の重要性

2010年4月23日

ワーク・ライフ・バランスを図ることが可能な職場づくりにおいて、必要なことは、1.職場のニーズにあった「制度を導入する」こと、2.使い勝手の良いよう「運用面の工夫をする」こと、そして、3.制度利用が利用者と周囲の同僚にとってマイナスにならないような「職場風土をつくる」ことです。

1.職場のニーズにあった「制度導入」

最初の制度導入については、育児・介護休業法関連の取組を中心として、充実したメニューを揃える企業が増えてきました。そうした「先進的事例」を参考に、制度を充実させようと努力している企業の人事担当の方もいらっしゃいます。


◆制度は自社の必要に応じた内容に!

しかし、制度内容は、充実していれば充実しているほど良いのかというと、必ずしもそうとは限りません。企業によって、人員構成が異なれば、社員のニーズは当然異なってきます。また、育児休業や短時間勤務の取得可能な期間も、長いほど良いとも言い切れない面があります。


例えば、育児休業も育児期の短時間勤務も子が3歳になるまで利用できるという設定ですと、育児休業は法定を超えた取組と言え、短時間勤務は、2010年6月から義務化される法定のとおりの対象となります。しかし、社員のニーズを聞いてみたら、育児休業は法定通りの「子が1歳に達するまで(保育園に入れないなどの理由がある場合1歳半まで)」とし、短時間勤務を努力義務の就学前までとしてくれた方が良いということがあるかもしれません。


後者ですと、法定を超えた取組という訳ではなく、企業にとっては、対外的にアピール力が弱いと感じるかもしれませんが、結果として、ニーズにあった制度を導入した方が利用者も増え、利用によって就業継続やキャリアアップを実現させる社員が増えることで、制度導入の本来の目的が果たせることになります。育児休業や短時間勤務の利用期間が長くなると、通常勤務に復帰しづらくなる、という面もあります。


もちろん、対象者や利用期間が広く取ってあれば、社員の選択肢が増えることになり、個々の事情に応じた制度利用ができる、という面もありますので、一概に「制度が充実しすぎると良くない」とは言えません。制度を導入して、一定期間運用してみて、その利用実態や利用者の声を把握して、判断することが重要でしょう。

2.使い勝手の良い「運用面の工夫」

次に、運用面の工夫です。「制度はあるけれど利用者が少ない」あるいは「利用しづらいという声がある」場合は、この「運用」の問題か、後者の「職場風土」の問題を疑ってみることが必要です。


「運用面」の工夫ポイントとしては、「周知」、「手続き」、「仕事の配分・目標設定」、「評価」、「キャリアプランニング」などがあります。


◆全社員への周知と簡便な手続き

まずは、制度導入の目的・意義や制度内容について、社内にしっかりと広報し、周知させることです。一番のターゲットは、管理職層ですが、制度利用予備軍や制度利用者の同僚となる社員にも理解が必要ですので、結局は、全社員に向けた周知活動が必要です。


手続きは、言うまでもなく簡便に、ということになります。2010年6月の改正育児・介護休業法の施行によって、短時間勤務も、利用者の希望によって対象期間中は、通常勤務との間を行き来できるようにする必要があります。これまでは、短時間勤務から通常勤務に戻ったら、短時間勤務には戻れないといった運用をしていた企業もあると思います。利用者が簡便に手続きを行えるようにすると同時に、人事としても、数ヶ月単位で通常勤務と短時間を行き来する人の給与や評価についての事務手続き等で過大な負担が生じないよう対応を検討しておく必要があります。


◆仕事の配分・目標設定と評価

短時間や短日勤務、在宅勤務など、通常のフルタイム勤務と異なる働き方を選択する場合、運用面で最も重要なのは、「仕事の配分・目標設定」について見直しをすることと、それらの仕事内容に沿った「評価」を行うことです。


制度利用者やその上司の方に話を聞くと、この部分でどう対応してよいか分からず悩んでいたり、双方の認識がずれているために不満が生じていたりします。例えば、短時間勤務の場合でみると、短時間勤務でも通常勤務の時と変わらない仕事や目標が与えられていて、実質決めた時間に帰れなくなっていたり、逆に仕事がまわらず周囲に負担がかかっていたり、目標が高すぎて本人の目標達成へのモチベーションや就業継続意欲が下がるといった問題が起こります。


◆「一人当たりの生産性」から「時間当たりの生産性」に!

仕事・目標設定や評価は難しい問題ですが、「一人当たりの生産性」から「時間当たりの生産性」に基準を変えることがキーになります。上司の立場として、最近は、残業も減らさねばならない中で、短時間勤務者が出れば、職場全体の目標達成が困難と思われるでしょう。短時間の人の仕事をそのまま誰か他の社員に負わせるのではなく、職場全体の「仕事」と「リソース(人的資源等)」を付き合わせ、ムダな仕事をなくし、効率化できる要素を見つけることで、職場のメンバー全体の「時間当たり生産性」をあげて、職場の目標を達成するという考え方が重要になります。人事部門から、基本的な考え方を示した上で、職場で話し合って対応を検討すること、上司と制度利用者で話し合って決めた対応についても、職場内の同僚に周知してもらうことが必要です。


◆「キャリアアップ」につなげよう!

最後の「キャリアプランニング」は、最近、注目されているポイントです。これまでは、ワーク・ライフ・バランスを図るといった場合、仕事と生活を何とか両立させることが目的、というより、それだけで精一杯という面がありました。


しかし、制度利用者が増え、制度利用期間が長くなるにつれ、両立するだけでなく、制度利用者がどうキャリアアップしていくか、ということが、制度利用者本人にとっても、企業にとっても重要な課題となってきました。先に上げた「仕事の配分・目標設定」、「評価」とも関係してきますが、制度利用者と上司が十分に話し合うことが重要です。個々のキャリアプランを話し合うだけでなく、人事部門で、制度利用の可能性を視野に入れて、社員のキャリアプラン全体を見直している企業もあります。


子育てや介護との両立をしながら、新しい仕事を覚えたり、職場を変わるというのは負担が大きいものです。しかし、そうした経験は、長期的なキャリアにおいて重要です。制度利用の可能性が低い時期に、できるだけこうした経験のうち、前倒しに行っていけるものはないかといった見直しや、転勤等の必要性について見直すことなどが考えられます。まだ、従来のキャリアプランが単線的なものであれば、複線的に多様なキャリアプラン(専門性の追求など)を設定することも考えられます。

3.制度利用が利用者と周囲の同僚にマイナスにならないような「職場風土」

最後に、職場風土の問題です。いわゆる「正社員」について、特に顕著ですが、「一律の働き方しか認めない」という雰囲気が大きな課題となります。一律の所定労働時間で一斉に働き、残業も厭わないという働き方をしない限り、「正社員」として認めない、あるいは、そういう従来型の正社員の働き方をしている人が「偉い」という認識は、なかなか変えることが難しいものです。


ワーク・ライフ・バランスの推進には、「経営トップのリーダーシップが重要」と言われるのは、こうした風土を変えるために、経営トップが、企業経営において多様な働き方を認めることが重要であると認識していて、本気でこれを進めようとしていることを知らせることが効果的だからです。そして、先にあげた「運用」面の工夫をきちんと行っていくことが、この職場風土を少しずつ変えていくことにつながります。


制度を正しく「周知」し、「仕事の配分・目標設定」で本人にも周囲にもそれぞれの役割を明確にし、納得性の高い評価を行う。多様な働き方をする人を受け入れられる職場づくりが、制度利用者にプラスになるばかりでなく、職場全体にとってもプラスになるよう運用することができれば、職場風土は自然に変わっていきます。


◆目指すべき職場風土

最後に、日本の職場風土の大きな特徴である「長時間残業」は、ワーク・ライフ・バランスの大敵です。これをなくせば、制度利用者が出た場合の職場のサポート負担が軽減されるのみならず、例えば、「残業が不安なので、長期間短時間勤務を利用していた」というようなことがなくなり、制度利用者が通常勤務に戻りやすくなります。特別な事情のある場合を除き、制度を利用せずとも、通常勤務で多くの社員がワーク・ライフ・バランスを図れることが、最終的に目指すべき職場風土と言えるでしょう。

<プロフィール>
矢島 洋子 氏
(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 経済・社会政策部主任研究員
中央大学大学院戦略経営研究科客員教授)
少子高齢化対策、男女共同参画の視点から、ワーク・ライフ・バランス関連の調査・研究に取り組んでいる。内閣府「少子化社会対策推進点検・評価検討会議」委員、労働政策研究・研修機構「労働力需給推計に係る研究会」委員等を務める。
著作に、「子育て支援シリーズ2『ワーク・ライフ・バランス~仕事と子育ての両立支援~』」ぎょうせい(共著)、「叢書・働くということ第7巻『女性の働きかた』」ミネルヴァ書房(共著)等。

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