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日本の医療を救え!! ~ 看護職のワーク・ライフ・バランスが患者の安全を守る!

2010年6月25日

社団法人 日本看護協会 常任理事 小川 忍 氏

看護職とは、保健師、助産師、看護師、准看護師の総称です。全国で約137万人が就業しています。そのうち病院勤務が約85万人、診療所に約30万人、介護施設に約6万5千人、その他、保健所、市町村、訪問看護ステーション、助産所などで働いています。

一方で、看護の資格を持ちながら、看護に従事していない者も約65万人いると推計されています。つまり、約1/3の看護職が看護に従事していないのです。

看護職のワーク・ライフ・バランス推進ガイドブック1

なぜ、看護師不足は起きる?

現在、勤務医や介護職の不足が深刻な社会問題になっていますが、看護師不足も同様に深刻です。その原因は、看護職の供給量が不足しているのではなく、看護職の離職にあります。日本看護協会の「2009年病院における看護職員需給状況調査」では、病院全体の常勤看護職の離職率(2008年度)は平均11.9%です。残念ながら、東京都にある病院の離職率は、大阪府の16.4%に次いで15.7%と“ワースト2”です。つまり大阪や東京の病院では、1年間のうちに約6人に1人もの常勤看護職が離職しているのです。離職しても他の病院等で看護に従事している方もいますが、看護の仕事自体を諦めてしまう方も多くいるのです。

なぜ、看護職は離職するのでしょうか。離職の背景の1つに、医療環境の著しい変化があります。この5年、10年で医療環境は大きく変化しました。

医学、医療技術の進歩によって救命率は向上しました。また、入院患者の平均在院日数は年々短縮しています。そのため頻繁に入退院があります。救命率の向上と平均在院日数の短縮によって、重症入院患者の占める割合が増えます。すなわち急性期入院医療においては、看護職には、常に人工呼吸器や心電図モニタなどの医療機器に囲まれて、中心静脈栄養や点滴などのチューブを付けた、いつ急変するかもしれない患者の治療と管理を安全に行うことが求められます。医療が高度化、専門化し、さらに過密化、複雑化するなかで、生命を左右する処置を行う強いストレスを伴う業務を担っています。

2つ目が、人件費の抑制方針のもとでの人員配置の少なさです。

医療保険財政等の厳しさを背景に、病院の収益となる診療報酬も伸び率を抑制されています。そのために人件費の抑制が病院の経営方針になっています。

夜勤・交代制勤務は24時間365日、患者の生命と健康を守るとても意義のある勤務ですが、一方で、看護職の健康には非常に有害です。そもそも人は昼に活動し、夜は睡眠をとるというリズムが体内に備わっています。夜、睡眠がとれなかったからとその分、昼に睡眠をとっても十分に疲労は回復しません。循環器疾患などのリスクが高く、最近では乳がんのリスクも報じられています。患者からのセクハラや暴言・暴力も、看護職にとってとても辛いことです。このような患者はごく少数ですが、夜勤帯は人員不足で看護職が複数で対応できません。これらの問題に対して、病院としても、さらに社会としても十分な支援が行われていません。

離職者が多い病院では、新人の看護師を多く採用することになります。新人の看護師は、資格を持っていても“一人前”ではありません。新人を多く受け入れる病棟では、日常の業務負担と新人指導の負担が増します。それがまた離職を増やし、悪循環になります。

3つ目は、職場風土と法令違反の問題です。

看護の現場では、「夜勤をやって一人前」「夜勤をやって当たり前」という職場風土があります。労働基準法では妊産婦が請求すれば時間外・休日・深夜に労働をさせてはならないと規定していますが、現場には周知されていません。他のスタッフに迷惑がかかるので、年次有給休暇もとる雰囲気はありません。

能力が不足しているので新人には残業代を支払わない、患者の急変など突発的なことがなければ残業代は支払わないなどの決まりごとがあり、サービス残業が常態化している病院も一部にあります。これらは明らかに法令違反ですが、人件費の抑制方針のもとで、長年の慣例や習慣として労働法令の順守は徹底されていません。

看護職のワーク・ライフ・バランス推進ガイドブック2

ワーク・ライフ・バランスの誤解

ワーク・ライフ・バランスというと、「1日の仕事の時間を減らし、生活時間を増やすことでしょ。」とか、「子育て支援のことでしょ。独身者には逆に仕事が増えるだけよ。」とか、「企業にとっては人件費が増えるだけだよ。」とか、このような誤解があります。

ある病院長は、「医師や看護師は専門職であり、労働者ではない。私の若い頃は、昼も夜も患者を診ることが勉強だった。」と言います。ある看護部長は、「人もいない、金もない、ゆとりもないのに、できるわけない。」と言います。また勤務表を作成する病棟師長は、「個人の希望を尊重していたら、夜勤や土日に出勤してくれる人がいなくなってしまう。」と最初から、できるはずはないと言います。

しかし、夜勤も残業も研修もバリバリできて、さらに育児や家事もできるスーパーマンのような看護職は実在しません。現実に約65万人の看護職が看護に従事していないのです。

多様な勤務形態による看護職の就業促進

日本看護協会では、短時間正職員制度をはじめとする多様な勤務形態の導入を支援しています。夜勤ができなくとも、フルタイムで働くことができなくとも、1週間に2日でも3日でも働くことができれば、正職員のままで看護職として働くことができれば、どれほど看護職の離職を減らせたでしょうか。

短時間正職員制度がうまく機能するためには、夜勤・交代制勤務者が不満を持たないように、職場全体で年次有給休暇を計画的に付与し、長時間勤務の改善に努める取組みを推進しなければなりません。

夜勤免除や短時間正職員制度を導入すると、他のスタッフの夜勤回数が増えたり、残業が増えたりすることが常に問題になります。制度を利用しないスタッフの不満が出るのです。しかし、多様な勤務形態の導入により先行的に看護職のワーク・ライフ・バランスに取組んでいる病院39施設に調査を行ったところ、業務調整や夜勤専従制を導入することで問題が生じても解決していたり、そもそも問題はないと回答しています。それらの病院は全国平均よりも離職率は低く、看護師の採用にもプラスの効果を発揮しています。

さて、日本看護協会では「看護職のワーク・ライフ・バランス推進ガイドブック」(2010年3月発行)を作成しました。ガイドブックを活用して、都道府県看護協会と協働して、ワーク・ライフ・バランスに取組む病院を支援するワーク・ショップも開催します。病院経営者や人事担当者、看護管理者の皆様の意識改革と具体的行動を起こすきっかけになることを期待しています。

ワーク・ライフ・バランスは積極的な経営戦略として民間企業では取組まれていますが、医療機関では、診療報酬の厳しさや、労働法令に対する認識不足、職場風土の問題がありなかなか進みません。しかし、看護職がすぐに離職する、新人が多い病院で、安全な医療が提供できるでしょうか。新人の採用・研修のためには、人手や時間、お金が必要です。一人前に育ててこれからという時に離職するのは、病院にとっても、社会にとっても大きな損失です。

医療従事者が働き続けられる職場は、患者にとって安全で質の高い医療、看護サービスを受けることのできる医療環境です。夜勤ができなくとも、勤務時間が短くとも、長く働き続けられる職場環境をつくることが必要なのです。日進月歩の医療、日々研鑽が求められる中で、看護職として離職期間が長くなればなるほど再就業が困難になるからです。

ワーク・ライフ・バランスは、医療従事者、病院経営者、患者の三者がWin- Win- Winの関係をめざしたものです。地域住民のニーズに応える、地域住民に信頼される医療機関として安定的な経営を行うための取組みの一つなのです。

少子高齢社会、人口減少社会を迎えた我が国において、離職による看護師不足の問題を解決するためには、看護職の働き方から変えていくことが必要です。日本の医療を救うのは、看護職のワーク・ライフ・バランスなのです。



看護職のワーク・ライフ・バランス推進ガイドブック3

「看護職のワーク・ライフ・バランス推進ガイドブック」は、日本看護協会のホームページから、ダウンロードできます。

http://www.nurse.or.jp/kakuho/pc/various/guidebook/index.html

<プロフィール>
小川 忍 氏
(社団法人日本看護協会常任理事、看護師)
日本看護協会では、看護職の労働環境改善や障害者施策を担当。
その他、厚生労働省の社会保障審議会専門委員、病院・地域精神医学会理事など。

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