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基調講演(平成21年10月2日)

「ワーク・ライフ・バランス実践が男女の働き方を変える」

学習院大学経済経営研究所所長  脇坂 明 氏

ただいまご紹介に預かりました脇坂と申します。

今日は、ワーク・ライフ・バランスとは一体何なのか、あるいはどういう概念で、どういういいことがあるのか、という話をします。

私は、企業で勤めたことは一度もございませんが、ずっとワーク・ライフ・バランスに関わってきました。この英語の言葉自体は十数年前ぐらいからですが、私のやってきた研究というのは、女性労働を中心にワーク・ライフ・バランスを考えることでした。その研究成果の一端をご紹介したいと思います。

ワーク・ライフ・バランスとは

まず、ワーク・ライフ・バランスとは何かという定義ですが、内閣府の専門調査会がまとめました「ワーク・ライフ・バランス推進の基本的方向」(資料1)によると、「ワーク・ライフ・バランスとは、仕事、家庭生活、地域生活、個人の自己啓発など、様々な活動について、自らが希望するバランスで展開ができる状態」、「仕事、家庭生活、地域生活、自己啓発、休養、などバランスのとれた姿がワーク・ライフ・バランス社会」となっています。

ワーク・ライフ・バランスを進めるためには、それぞれ個人、社会全体、個々の企業・組織が何をしたらよいのかということもまとめられております。私は、これに直接は関わっていませんが、資料1は、ほぼ私の考えどおりのことが書かれております。

資料1 「ワーク・ライフ・バランス」推進の基本的方向(ポイント)

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私は、ワーク・ライフ・バランスを進めていくときに、個々の企業・組織というのが一番重要だと思っています。

よく「経営戦略としてのワーク・ライフ・バランス」という言い方をしますが、つまり、個々の企業・組織にとって多様な人材がいることが競争力を強化する、ということです。それは、従業員の人生の段階に応じたニーズに対応していく。若年層、子育て層、要介護者を抱える人など、いろんな人たちに対応するワーク・ライフ・バランス施策をやっていけば、従業員の意欲とか満足度が向上するわけです。ワーク・ライフ・バランスは、経営戦略の重要な柱であって、ワーク・ライフ・バランス施策を進めるのは、単なるコストではありません。実際は、コストは殆どかかりません。コストがかかったとしても、「明日への投資」であるということが書かれております。これには私も大賛成です。

それから、中小企業にとっても、特にワーク・ライフ・バランス施策というのは非常に重要な意味を持っているということです。


この専門調査会の報告がもとになって、2007年の12月18日に政労使による「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」が出来ました。研究者としてずっとやっていた人間にとって、こういう憲章ができたことは、僕が作った訳ではないけれど研究者冥利に尽きるところです。


ここまでには資料2のとおり、92年の育児休業法、99年育児・介護休業法、その後の次世代育成支援対策推進法の施行など、大きな流れがありました。少子化が大きなインパクトになり、「ワーク・ライフ・バランスに取り組もう」という流れになりました。

資料2 経緯

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それから、来年2010年からは、育児・介護休業法がまた改正されまして、3歳未満の子を持つ親に対しては短時間勤務を設けなければいけないので、今後ますます、ワーク・ライフ・バランスに積極的な企業だけでなく、そうでない企業も考えざるを得ない状況で進んでいくと思います。


ワーク・ライフ・バランスの4つのポイント

さて、ワーク・ライフ・バランスという言葉は、マスメディアなど色々なところで取り上げられていますが、「聞いたことがない」という人が3割から4割います。

ワーク・ライフ・バランスには、女性活用や長時間労働の解消など色々な視点がありますが、先ほど言いました経営戦略としてワーク・ライフ・バランスに取り組むには、4つのポイントがあります。

資料3 WLBの4つのポイント

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1番目は、「一時点でなくて生涯でみる」。

単なる1日当たりの、あるいは1週間当たりの労働時間の短縮の問題ではないということです。19世紀から20世紀の初めにかけては、とにかく長時間労働、12時間労働や10時間労働を短縮しなければという形できました。一方で、1日8時間労働というところまできて、やはりもっと働きたいとか、ある時期は働きたいという人たちもいるわけです。ただ、ずっと長時間労働、残業で、それが一生続くとか、あるいは3年も5年も長時間労働、残業が続くというのはやはり変であると。だから、「一時点ではなくて生涯で見る」。めりはりをつけて働く。これが今までの単なる労働時間短縮運動とは違うところです。


2番目は、先ほど多様性と言いましたが、もともと多様性というのは、色々なタイプの従業員がいた方がいろんな発想が生まれていいということです。これはアメリカから生まれた概念で、色々な人種の人たちや、障害者を雇いましょうという話です。現在の日本の局面では、キャリアの多様性、さまざまなキャリア、職業経歴を持っている人たちがいた方が企業にとってはよい、という概念です。全員入社後同じ会社で、それもフルタイム+(プラス)残業でずっと働いている従業員ばかりだと、なかなか生活に密着した、あるいは創造力のある考え方ができないということで、多様性というのもワーク・ライフ・バランスの2番目のポイントです。


3番目は、「win-win」です。これは、従業員にとってよいことは、企業にとってもよい、ということです。これは1つ大きなポイントです。

従業員にとってよいことが経営にとって非常にマイナスになってしまうと、いわゆる労使の対立といいますか、そこで労使の交渉が行われる。ワーク・ライフ・バランスはそういう側面も全くない訳ではないが、基本的には私はwin-winだと思います。従業員・労働者にとってよいことは企業にとってもよい。そうすると、企業のパフォーマンス、企業の業績が重要な指標になってきます。

ということは、ワーク・ライフ・バランス施策を進めていった企業の方が、簡単に言うと、企業の業績が上がるということになります。こういうことが本当にあるのかどうか。ワーク・ライフ・バランス施策をどんどん取り入れたら企業の業績が落ちてしまったとなると、なかなか普及はしません。だから、企業のパフォーマンス、それもワーク・ライフ・バランスですから、短期じゃなくて長期のパフォーマンスの視点というのは非常に重要です。


4番目は、男女の均等とか、女性活用の論点です。

ともすれば、ワーク・ライフ・バランスというのは、女性にほどほどに働いてもらう、小さい子どものいる人たちにとにかく働く場だけ提供するといった形でバランスをとるという考え方がありますが、それではwin-winという形にはつながらない。ですから、男女均等、女性活用という観点が非常に重要です。こういった観点からのワーク・ライフ・バランスの研究が本当に急速に、ここ4~5年で増えております。


それで、私は特に3番と4番の観点に関して、そういうデータセットをつくって研究をしてまいりました。

これまでの研究は、男女が平等で、ワーク・ライフ・バランス制度の進んでいる企業が対象でした。そのワーク・ライフ・バランス制度のほとんどはファミリーフレンドリーです。ファミリーフレンドリーとは、従業員の家族にやさしい制度です。ワーク・ライフ・バランスはそれよりもちょっと広い、家族を持っていない従業員も含めた制度です。

わが国での研究結果では、男女が平等で、ファミリーフレンドリー制度が進んでいる企業ほど経営パフォーマンスがよいということがわかっております。つまり、ワーク・ライフ・バランス施策をどんどん進めていけば、長期的には儲かるという結果が出てます。制度を導入していない、定着していない企業は、どんどん進めていくべきだという結論になります。

これは専門的になってしまいますので、興味のある方は、参考文献(資料19)に、僕の論文などがありますので、参照してください。

ワーク・ライフ・バランスで業績向上

では、どうしてワーク・ライフ・バランスを進めると業績が向上するのかというと、これが6つぐらいルートがあります。資料4は、イギリスとアメリカの研究をまとめたものです。

資料4 WLB(ファミフレ)→業績向上

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ワーク・ライフ・バランスを進めるとよい人材が確保できる。その人材が定着する。それから、従業員のモチベーションが上がる。業務の運営が効率化する。例えば、育児休業や短時間勤務をとったりすると、そこの仕事を見直さないといけない。これらそれぞれのルートで業績が向上する、というわけです。


では、日本で、先ほどの研究結果のどれが一番多いかといいますと、それは一概には言えませんでした。やはりそれぞれの企業によって違うわけです。ただ、多くは、よい人材がとれる。人材定着。アンケート項目だとここが非常に多くでています。

資料5は、先ほどの6つの仮説からどういうルートで業績が上がるのかということを図に示したものです。

資料5 WLB施策が企業業績に及ぼす影響(6つの仮説)

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中小企業では困難か

ワーク・ライフ・バランスの話をするとき、「それは大企業の話だ。中小企業では無理だ」という話が出ます。今日の後半のパネルディスカッションで3社の中に1社、中小企業が参加されますけど、私が調べた中小企業でも決してそういうことはありません。

まず、ワーク・ライフ・バランス施策の中でコストが大きくかかるのは、事業所内保育所です。これは中小企業でなくても、大企業でもコストがかかります。しかしながら、それ以外は、さまざまな休業にしろ、短時間勤務にしろ、休業の場合は、ノーワーク・ノーペイです。休業期間中に給料を払うわけではありません。

短時間勤務の場合、例えば6時間勤務であれば、8時間から6時間で2時間分は減額しますから、財務的、人件費的にはお金はかからないわけです。

何故「中小企業ではできない」と言うかといいますと、ポイントは、例えば、育児休業など色々な休業をとるときの代替要員とか、あるいは短時間勤務者がいた場合の補充要員とか、その辺の調整とか引き継ぎのコストがかかると言っているに過ぎません。それが大企業と中小企業を比べて、中小企業の方が難しいということは、基本的にはない。1万人の大企業であっても、休業者や短時間勤務者が出たときにどうやり繰りをするかというのかは、大体14~15人の単位の中で対応するのが現状ですから、そんなに差はないわけです。


最近の調査(厚生労働省「平成20年雇用均等調査」)では、育児休業期間中に金銭支給をやっているところは13%、支給なしが85.3%です。ほとんど払っていないわけです。13%支給していますけれども、非常に小さい金額です。基本的にはノーワーク・ノーペイです。

育児短時間勤務の場合はどうかというと、基本的には、短縮時間分は無給です。先ほどの調査で、育児短時間勤務の短縮時間分の賃金の取り扱いについて、有給のところが9.1%、一部有給が8.6%ありますが、8割、81%は無給です。

例えば、総合商社は短時間勤務でもほとんど全額支給されます。そうするとどうかというと、有給にすると、短時間勤務を取りたい人が、逆に気を使って取りにくくなってしまいます。ですから、僕は、有給の企業もありますが、基本的には、休業中はノーワーク・ノーペイ、短時間勤務のときは減額することでいいと思います。

このように、財務的、人件費的にはコスト増にならないはずです。それより、休業中の代替要員、補充要員との引き継ぎや仕事の調整がポイントになってきます。


ですから、ワーク・ライフ・バランスを普及するには、「制度だけでなく運用の重要性」を理解してもらうことです。確かに大企業の方が制度がしっかりしているケースが多いですが、中小企業では、それぞれの社員の顔が社長とか上の管理職から見えますから、運用はうまくいきます。大企業ですとどうしても部長さん、課長さんでも一人一人の社員の顔が見えないので、なかなか運用がうまくいかない。だから、ある意味では中小企業の方が運用しやすい側面があります。

これまでの中小企業に関する調査を見ると、大企業よりうまくいっている企業か、全く関心がなく何もやっていない企業かのどちらかです。一方、大企業は大体中間にあるというイメージを持っております。


短時間正社員の普及で多様で柔軟な働き方を

以上は、フルタイム正社員が短時間勤務などのワーク・ライフ・バランス施策をとるという話でした。

それでは、フルタイム正社員はいいけど、正社員でない人たちはワーク・ライフ・バランスは全く関係がないのか、給与が低い上に雇用も不安定で、ワーク・ライフ・バランスというのは自分たちには関係ないのか、そういう言い方をされることもあります。

私は決してそうは思いません。これからご紹介します短時間正社員はワーク・ライフ・バランス施策の中の一番のキーポイントであると考えています。

もちろんワーク・ライフ・バランス施策の中には、短時間正社員以外にも色々な施策がありますが、短時間正社員というものが普及すれば、(パートタイマーを含む)すべての働く人たちを巻き込んだものになっていくと思っております。


現在の状況は、いわゆる正社員と正社員でない人と二極化とか分極化と言われております。正社員でない人たちの大半がパートで9割を占めます。両極化しているから、正社員で幾らワーク・ライフ・バランスを言っても、パート・派遣労働者がどんどん増えていますから、この人たちはどうなるのかというわけです。

資料6 現在:正社員(正規・フルタイム)とパート・派遣などとの分極化

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それで、どうすればいいかが、資料7です。

横軸が賃金とか処遇に関するもの、縦軸が企業とのつながりとか高速性とか柔軟性です。右上がフルタイム正社員で、左下がパートとか派遣ですけれども、この間をつくればいい。企業とのつながりとかもそこそこで、処遇も二極化の間のような働き方をつくればいいのです。

資料7 将来:多様で柔軟な働き方のイメージ

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それは例えば勤務地限定社員とか、色々ありますが、労働時間に関して言うと、「短時間正社員」です。短時間でありながら正社員。伝統的な考え方は、「労働時間が短かったら、正社員とは違う社員区分のパートにする」でした。そうではなくて、パートさんの中にも非常に基幹的な仕事、重要な仕事をしている人がいるので、この間をつくる。それが「短時間正社員」です。


実を言うとこの短時間正社員に対するニーズは、かなり高いものがあります。ちょっと時期は古いですが、2001年は今と同じような不況でした。その2001年に「短時間正社員制度があったらどれだけ利用したいか」という調査をしたところ、「今すぐでも利用したい」というのが全体で2割いるんですね。「今はできないけれども、将来利用したい」が3分の1。2割と3分の1で、半分以上になります。不況期でありながら「利用したい」というニーズが高かったのです。男性だけをとりましても、「今すぐ利用したい」14.3%、「将来利用したい」も含めますと半分近くでした。

それから、2001年のときにパートさんで働いていた人の半分近くが短時間正社員になりたいという希望を持っていて、非常にニーズは高いのですが、なかなか普及はしてこなかったのです。が、今度のリーマンショックになる前には、日本でもあちこちの企業で短時間正社員制度が見られるようになってきました。


それで、昨年、短時間正社員に関する研究会を立ち上げまして、調査をやりました。短時間正社員と言っている会社はないわけです。その会社に合ったいろんな名前をつけるんですね。「ショートタイム社員」とか「何とかメイト」とか色々な名前がありますが、イメージとしては3つあります。

資料8 2008年調査における「3タイプ」の短時間正社員(厚生労働省HP)

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タイプⅠというのは、一時的に所定労働時間が短くなるタイプです。先ほどの図(資料7)で言うと、右上の「正社員」から一時的に中間の位置に、例えば子どもが小さいうちだけ短時間で働き、子どもが大きくなったら、またフルタイムで働くというのがタイプⅠです。

タイプⅡというのは、フルタイム正社員の人が所定労働時間を短くしてそのまま、というものです。

タイプⅢというのは、いわゆるパートの人がよりレベルの高い仕事、正社員と同じ仕事をする。そのときには短時間正社員となって、それまで、もしパートタイムが有期の雇用であれば、期間の定めのない雇用に移る。正社員だけど短時間のままということです。


タイプⅠ~Ⅲに分けてアンケート調査と十数社のヒアリングを平成20年に行いました。

その中で少し結果をご紹介しますと、育児とか介護というのは、法律上で努力義務ということもあって、育児短時間勤務とか介護短時間勤務というのはそれなりに入ってます。それ以外の事由、例えば健康を理由とした短時間勤務とか、自己啓発のための短時間勤務を導入している企業がどれくらいあるかといいますと、8.3%です。やはり多くないのですが、私は流れとして、最初に育児・介護短時間勤務がきっちり短時間正社員として定着すれば、その次に育児・介護以外の事由、理由を広げていく。この8.3%がどんどん広がれば、先ほど言ったwin-win(従業員労働者にとってよいことは、企業にとってもよいこと)の状態になり、企業の業績も長期的には上がると思っております。

資料9 育児・介護以外の事由

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資料10は、企業に「短時間正社員制度を導入して、どういうメリットがあるか」聞いた結果です。未導入企業には、「もし短時間正社員制度を入れたらどんなメリットが考えられるか」に対する回答です。「育児介護のみ」というのは、育児または介護を理由として短時間勤務ができるという、育児介護のみの企業の回答です。短時間正社員の欄は、育児・介護以外の事由でも短時間勤務ができる企業のメリットです。

メリットは、優秀な人材獲得から定着率向上、業務効率化など色々ですが、ほとんどの項目で、未導入企業よりも、実際に導入した企業がメリットをこれだけ多く感じています。だから、導入していない企業はわかっていないんですね。

実際に短時間正社員制度を導入して育児・介護以外の事由まで広げている企業の方がより多くのメリットを感じています。

資料10 「短時間正社員制度を導入してどういうメリットがあるか」

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それと反対に、今度はデメリットです。

これは2つありまして、まず、「仕事の進め方に関するデメリット」です。

資料11 「仕事の進め方に関するデメリット」

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仕事の進め方で、未導入企業と入れた企業とどう違うかといいますと、もし入れたらどんな課題、どんなデメリットがあるかというパーセンテージについて、一つの例外を除きまして、ほとんどが未導入企業の方が高いんですね。実際、導入している企業の方が、課題はそんなに生じなかった。未導入企業が取り越し苦労というか、杞憂というか、「短時間正社員なんて導入したら大変なことになってしまう」と思っているのです。

ただ1つの例外が「職場の同僚に仕事の負担がかかる」。これがちょっと多いのですが、それ以外は、仕事の進め方に関しては、実際に導入すると大した問題ではありません。


もう一つのデメリットは、「処遇に関するデメリット」です

資料12 「処遇に関するデメリット」

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「賃金、退職金が複雑になる」。フルタイムと短時間勤務の人がいて、非常に計算が面倒くさくなるということです。

「目標設定の仕方や評価」。人事評価はしなければいけませんし、フルタイムの場合と短時間の場合と非常に複雑になって見直しが生じるということです。こういったケースでも、未導入企業の方が、それを大きく負担と考えている。実際導入した企業はそれなりにうまくいっています。未導入企業が考えるほど負担は多くはない。もちろん、それなりにまだ課題となっている企業もありますけれども、実際導入していくと、メリットの方が大きくて、デメリットはそれほど多くないということがこのデータからわかるのではないかと思います。


短時間正社員制度を詳しく紹介しましたが、必ずしも短時間正社員制度を導入しなさいというわけではなくて、その会社の人員構成に合った、無理のないワーク・ライフ・バランス施策を導入すればいいと思うのですが、私は短時間正社員が非常に大きなポイントだと思っています。


1つ事例を紹介します。モロゾフという神戸のお菓子屋さんです。大きな会社ですが、この会社は、先ほど(資料7)の右上の正社員から短時間正社員、左下のパートさんから短時間正社員、ちょうどきれいな形で短時間正社員制度を導入した企業です。

お菓子屋さんは販売部門が多いので、どんどんパートが増えてきたんですね。パートが増え、各百貨店のコーナーの店長もパートさんがするようになってきました。そのパートさんをきちんと処遇するために、まず、2002年にパートさんを、「シーズンパート」、「レギュラーパート」、「エキスパート」の3つに分けました。リーダークラスをエキスパートとして、時間給も高くしていきました。いわゆる「パートの活用」は、大体ここまでの取組です。パートできちんと処遇するのです。


ところが、この会社は、社長さんの熱意によって、2007年(平成19年)に「ショートタイム社員」という短時間正社員制度を設けます。フルタイム正社員は、どんな理由でも労働時間を短くしたいときになれますし、先ほどのパートタイマーでリーダークラスの人(エキスパート)もショートタイム社員になれるわけです。だから、ショートタイム社員になったら、フルタイム正社員からの人も、パートさんからショートタイム社員になった人も、全く同じ給与体系です。労働時間は、6時間、5時間とか、色々と選択肢はありますけれども、時間当たり賃金は全く一緒です。

どれ位いるかといいますと、最初の2007年は「エキスパート」169名がショートタイム社員に転換し、その後、2008年度は43名エントリーして、5名が試験に合格、フルタイム社員から転換したのは3名でした。これが、私が考える短時間正社員制度の人事制度上の一番望ましい姿です。


しかしながら、問題は人事制度をどうするかではなくて、実態なんです。フルタイム社員が短時間勤務になっても、パートタイマーの人からショートタイム(短時間正社員)になっても気持ちよく仕事をしてもらう。それが売上につながっていく、利益につながっていくわけです。

モロゾフの例は、厚生労働省のホームページから動画で見ることができますので、ぜひ参考にしてください。→http://tanjikan.mhlw.go.jp/movie/index.html#m_case02

何よりも、この会社で何が一番効果があったかといいますと、ショートタイム社員になった人ではありません。それよりも、大半を占めるパートさんがショートタイム社員制度があることによって、「自分たちも頑張れば正社員になれるんだ」という、パートさんの活性化に大きくつながったと言われています。


このように短時間正社員制度を設ければ、すべてではありませんけれども、会社で抱えているいろんな従業員の不満であるとか、それも正社員も正社員でない人たちも含めて、かなり解決できるのではないかと思っております。

ワーク・ライフ・バランス施策の中の短時間正社員について少し詳しくお話しました。


ワーク・ライフ・バランス指標について

短時間正社員制度だけではなく、色々なワーク・ライフ・バランス施策があります。そのときに、自分の企業は社会全体でどれくらいの位置づけになるのか、指標化がどうしても必要になってきます。

ということで、ワーク・ライフ・バランス指標というものを我々、学習院大学経済経営研究所が3年ぐらい前に作りました。経緯は、大企業34社がワーク・ライフ・バランス塾という3年間限定の組織を作り、3年目の活動として指標を一緒に作りました。ポイントは、認定とか表彰のためではなく、企業のワーク・ライフ・バランスの状況を自己評価するための指標ということです。

資料13 WLB指標(学習院)の開発と活用について

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資料14 WLB-JUKU INDEXとは

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構成がどのようになっているかというと、インプット要素として、いろんな経営方針があり、施策がある。その結果、経営パフォーマンスがどうなるかを全部測れるようになっております。先ほどちょっと研究結果で紹介しました、どういうワーク・ライフ・バランス施策が充実すれば利益が長期的に上がるのか。このインプットとアウトカムだけを説明しましたが、企業にとって一番重要なのはそこではなく、どういうプロセス、制度を導入したときに、社員は制度をちゃんと認識し、利用しているかどうか、こういうプロセスが重要です。これは様々なワーク・ライフ・バランスに関する制度をずらずらと並べて評価できるようになっております。

資料15 WLB-JUKU INDEXの構成

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資料16 WLBと外部条件との関係分析

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企業の調査だけでなく、従業員の調査をしてもらい、それを全体でこの指標を見ることによって、我が社がどういうふうになっているかを見ることができるようになっています。

大企業版だけでなくて中小企業版も今度つくりました。それから、病院の勤務が今大変なので、看護師版と医師版をつくりました。今後、看護師版をバージョンアップしようとしております。全然ワーク・ライフ・バランスがとれていないという状況は、病院が典型的ですが、ニーズがあったので、指標を病院版に変えたということです。

資料17 WLB指標を測定するための調査票

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ワーク・ライフ・バランス実践プログラムの活用を

東京都が平成21年3月に作成した「ワーク・ライフ・バランス実践プログラム」が配付されていると思います。これは私も関わりました。日本で一番いいと言うとちょっと言い過ぎですが、同じようなものが今まで10ぐらいあります。その中でトップクラスです。非常に使いやすい。現場目線に立ち、ワーク・ライフ・バランスを推進していくときに、何がポイントで、どこにどういうデータがあるかとか、そういうものになっております。

僕は10年前に初めてイギリスのこれに近い資料を見たときにびっくりしたんです。こんな素晴らしいものがあるんだと。ところが、今現在は、イギリスよりも日本の方が圧倒的にいいものがあります。非常にわかりやすい。イギリスのものはここまで丁寧じゃないです。それぐらいいいもので、その一つが東京都のワーク・ライフ・バランス実践プログラムですので、ぜひワーク・ライフ・バランスを進めていくとき、課題にぶち当たったとき、これを参考にされればと思います。

資料18 東京都生活文化スポーツ局『ワーク・ライフ・バランス実践プログラム』お悩み別

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不況時にこそワーク・ライフ・バランス

最後に、不況時にこそワーク・ライフ・バランスという話をしたいと思います。

今日も失業率が発表され、5.5%という非常に高い失業率で、雇用情勢も厳しいです。私の持論は、好不況かかわらずワーク・ライフ・バランスの推進は必要ということです。好況時は人材が足りませんから、いい人が集まらない、定着しないということでワーク・ライフ・バランスを進めていきます。

一方で、短時間正社員制度の導入は不況時の方がいい。といいますのは、短時間正社員はコストがかかりませんけれども、仕事を見直したり、従業員一人一人が働き方を見直さないといけないのです。好況時は、次々仕事がきますから、その余裕がないわけです。不況時は時間的な余裕があるわけで、今までの働き方でよかったのかどうかをゆっくり考える時間があります。もちろん経営が厳しいですから、その不況時でも一所懸命経営努力はしなければいけませんけれども、それでも好況時から比べれば圧倒的に考える余裕があります。企業全体としても、職場でもいろんな仕事を見直す必要があるし、従業員個人個人に対しても、今までの働き方を見直すきっかけを与えられるのです。

ですから、不況だからだめとか、中小企業だからできないというのは、私はワーク・ライフ・バランスに関しては全く間違っていると思いまして、不況時こそチャンスであり、中小企業であっても、中小企業であるからこそ運用がうまくいって、ワーク・ライフ・バランスが推進されるのではないかと思っています。


これで基調講演を終わりたいと思います。ご清聴ありがとうございました。

資料19 参考文献(1)

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資料20 参考文献(2)

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資料21 参考文献(3)

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